世界の富豪列伝 - 富豪のマネー哲学に学べ!

歴史に名を残した世界の富豪たちは皆、独自の人生観とマネー哲学を持っていました。時代を超えて通用する彼らの叡智に学びましょう。

第3回 李嘉誠(リ・カシン)
激動の香港に賭けて大富豪となった実業家

2008年5月21日
李嘉誠(リ・カシン) ── 激動の香港に賭けて大富豪となった実業家

不動産、インフラを制するビジネス帝国

李嘉誠は、現在、中国に210万㎡、香港には70万㎡、そのほかに100万㎡以上の敷地面積を所有する不動産開発業を中心に、ホテル経営、エネルギー、英国系テレコム買収に始まる通信業、インターネットなどのインフラ事業から、ヨーロッパ・アジアに及ぶ小売業までを傘下におさめるグループ企業の総帥です。

世界56カ国で事業を展開し、460余りの会社と18万人の職員を率いています。北海道のニセコ開発やサッカーチーム・インテル買収などにも名前を見せ、イギリスの爵位を持ち、フォーブス誌の富豪番付では11位にランキングされている世界有数の大富豪なのです。二人の息子らと共に「李帝国」は、急激な経済発展をしている中国政府にも強い影響力を持っています。

しかし、この大富豪は銀のスプーンをくわえて生まれたわけではありませんでした。広東州で生まれた李嘉誠は、12歳のとき、日本軍の侵略によって教職を失った父親に連れられて渡った香港で、貧しい少年時代をすごしました。中学在学中に父を亡くした後、伯父の経営する腕時計会社で働き始めたのでした。生活のすべてを節約しなければならなかった李嘉誠でしたが、読書だけはやめなかったと言います。

「ホンコンフラワー」からの出発

戦争が終わり、50年代に入ると、李嘉誠はプラスティック製造の小さな工場を始めます。そこで彼は専門書を参考に自ら製造機械を開発し、「ホンコンフラワー」と呼ばれるプラスティック製造花を作り、世界的に大ヒットしたのです。地価の安い地区を片端から買収して工場を広げ、さらに賃貸工場も作り、不動産業の足場を作っていきました。

ところが、1967年、中国の文化大革命の余波で起きた暴動で香港の地価が大暴落してしまいます。ほかの事業家は次々にカナダなどに逃げていくなか、李嘉誠は一大決心を固めます。底値になった香港の土地を買って買って買いまくったのです。とはいえ、李嘉誠は、中国が勢いに乗って香港を奪還することはないだろうという状況を見極めた上での見込みをもっていました。

彼の予想通り、10年余り続いた文化大革命時代が終焉すると、香港の景気は急速に回復に向かい始めました。中国本土での弾圧から逃れてきた人々も多く、狭い香港の地価は上昇に転じ、李嘉誠の我慢強い賭けは成功し、香港一の大財閥となるきっかけになったわけです。1977年、ヒルトンホテルを買収、香港政庁に続く不動産所有者となった78年に続き、79年には宗主国イギリスの名門コングロマリット、ハチソン・ワンポアを買収し、世界の注目を浴びまることになります。

「三番目の息子」を愛する愛国実業家

成功後も少年時代の苦労を忘れない李嘉誠は、成果を自分だけのものにはしませんでした。「李嘉誠基金会」を設立。この基金を二人の息子に続く「三番目の息子」と呼んで、財産の3分の1を寄付すると宣言しており、その額はなんと2兆2000億円とも言われています。5月12日に起きた四川省大地震の際にも、即座に3000万元(約4億5000万円)の寄付を表明しました。

また、香港郊外には大学(汕頭大学)を、北京には大学院(長江経営大学院)を設立し、次世代育成にも貢献しています。李嘉誠は、こうした慈善活動の目指すところは、中国を自由でオープンな社会にすることだと発言しています。いまはまだ難しくても、自身が若いころから幾つもの苦難を乗り越えてきたように、そして独学で多くのことを学んできたように、若い世代もまた成長するだろうと期待をかけています。

宗主国の大企業を次々に買収し、慈善事業にも熱心な李嘉誠への、中国政府からの信頼は絶大です。公共事業のほか、中国政府が国際金融市場からの外資調達のために設立した中国国際信託投資公司の役員にも任命されています。

際立つ堅実さで信用を重んじる

地価の大暴落時に周囲とは逆の予想を立て、安くなった土地を買いあさるような「ばくち的」とも思えるビジネスとはうらはらに、李嘉誠は堅実な努力と信義の人でもあります。アメリカの大企業が「従来の値の3割増しで製品を買い取る」と持ちかけて来たときには、この話に乗れば、いま取引をしている顧客を裏切ることになると「きっぱり断った」と言います。自身が味わった苦難を常に忘れず、「友情や信義を第一に守り通した」と振り返っています。

[参考文献]
Forbes.com「The World's Millionaires」 2008年
樋泉克夫『華僑烈々』(新潮社)

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